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花さかじじい

とんと、ひとつあったとい。
昔、あるところに、心の優しいじじいとばばあがおったと。
ある日、じじいは山へ柴刈りに、ばばあは川へ洗濯に行った。
ばばあが、川で洗濯をしておると、川上から、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃が流れてきた。
もひとつこい、こっちへこい
もひとつこい、こっちへこい
と、ばばあが呼んで、その桃を拾うて帰り、突き臼の中へ入れておいた。
やがて、じじいが山から帰って、
「ばばあ、ばばあ、腹が減ってぺこぺこや。なんか無いけ。
と言うた。
「ああ、さっき、川で大きな桃を拾うて帰った。そいつを土間の突き臼の中に入れておいたから、それでも食べっしゃい。」
と、ばばあが言うた。
「そうかい、そりゃあ、うまいこと。どれどれ、食べようかい。」
じじいは、そう言うて土間へ行ってみて驚いた。突き臼の中には桃ではなくて、かわりに白い犬がおった。
「桃でなあて、犬ころや、犬ころや。」
二人には子供がなかったので、その白い犬ころを、かわいがって育てることにしたと。
犬ころは、ひと椀食わせればひと椀分だけ、ふた椀食わせればふた椀分だけ、鍋で食わせれば鍋の分だけ、どんどん大きくなっていった。
ある日、犬ころがものを言うた。
「おじじ、おらの背中に、鍬とかますを付けっさい。」
じじいは、これを聞いて言うた。
「かわいいお前に、鍬とかますを、どしてくけらりょかい。」
「だんない。付けっさい。」
じじいは、それではと、犬ころの背中に鍬とかますを付けると、犬ころはのっしのっしと歩いて、裏の山の畑へじじいを連れて行った。
山の畑へつくと、犬ころは、あたりをくんくん嗅いでいたが、やがて前足で土を掘り返し、
ここ掘れ ワンワン
ここ掘れ ワンワン
と、ないた。
じじいが、鍬でざっくりこ、ざっくりこ、土を掘り返すとカチッと音がして、きらきらひかる大判小判に、二分金やら、一朱金やら、お金がたくさん出てきた。
「こりゃあ、たまげた。」
じじいは、かますにお金を詰め、急いで家に帰り、ばばあに見せた。
そして、二人して、お金を手のひらにのせてみたり、すくってみたり、ジャラジャラ、こぼしてみたりして、喜んでおった。
ちょうどそこへ、隣の欲張りばばあが、火種を借りにきて、
「じいさ、じいさ、お前のところには、お金はないと言うとったが、どこからそんなにでかいと、お金がきたいけ。」
と、尋ねた。
人の良いじじいは、犬ころの話をしてやった。
「そんな犬ころなら、おらにも貸せっさい。」
となりのじじいとばばあは、嫌がる犬ころの首に縄をつけ、早速、鍬やかますをくくりつけて、山の畑へいき、
「さあさあ、おらの畑の大判小判を探せ。」
というて、犬ころの尻を、びしびし叩いた。ところが、出てきたものは、瓦のかけらや石ころばかり。そのうちにヘビやらカエルやらが、ぐにゃぐにゃと這い出してきた。
隣のじじいは、かっかに怒って、
「この奴め、こんなものを掘らしたわ。」
というて、とうとう犬ころを殴り殺して、そこにうずめ、ぶりぶり怒って帰っていった。
優しいじじいとばばあが、いくら待っても、犬ころは帰ってこない。隣のじじいのところへ行って、話を聞いて驚いた。
「なんちゅう、かわいそうなことを。犬ころは、もう、死んでしもたがかいけ。」
と、泣き泣き、山の畑へ行って、犬ころの墓を作り、そこにヤナギの木を植えて帰った。
ところが、次の日、じじいとばばあは墓へ行ってみて、驚いた。昨日植えたヤナギの木は、もう見上げるような大木になっておった。
「わあっ、こりゃあ、たまげた。ばばあや、犬ころの形見のヤナギで、挽臼を作って、米かいて、犬ころの供養にごっつおを作ってやろまいか。」
挽臼ができると、じじいとばばあは、さっそく米を挽き始めた。そしたら、またまた驚いたことに、ごずるごずると、米を挽くたびに、じじいとばばあの前に、大判小判が、チャリンコチャリンコ、こぼれた。
ちょうど、そこへ、隣の欲張りばばあが、火種を借りにきた。
「こりゃあ、良い挽臼じゃ。おらとこにも、貸してくれっさい。
と、挽臼を持っていった。
「よーし、今度こそ大判出ろ。」
隣のじじいとばばあが、ごずるごずる、米を挽き始めたら、さあ、たいへん。
じじいとばばあの前には、鳥の糞やら、ウサギの糞やら、しまいには牛や馬の糞まで出て、隣の家は、糞だらけになってしもうた。
またまた、かっかになって怒ったじじいは、挽臼を叩き割って、火にくべて、ぼんぼん燃やしてしもうた。
優しいじじいは、いつになっても、挽臼が返ってこないので、隣の家へ行ってみた。すると、隣のじじいは、
「あの挽臼は、糞ばっかし出したもんで、腹が立って、火にくべてしもうたわい。」
と、ぷんぷんに怒って言うたと。
「ああ、なんちゅう、もったいないことさしたや。そんでは、それの灰でもないかいけ。」
と言うて、じじいは、灰をもらって帰った。
「犬ころの形見の挽臼だったがに。せめて、墓にでもかけてやろまいけ。」
と、じじいとばばあは、犬ころの墓参りにでかけた。
すると風が吹いてきて、灰をぱっと吹き散らした。と、見る間に、まわりの梅の木には梅の花が、サクラの木にはサクラの花が、ぱっ、ぱっ、と咲いた。
「おお、犬ころが、今度は花を咲かせてくれたがいね。」
たいそう喜んだじじいは、村の中へ出て行って、道みち灰をまきながら、
花さかじじい
枯れ木に花を
咲かせましょう
と、うたった。
そして、梅の木には梅の花を、サクラの木にはサクラの花を、ぱっ、ぱっ、ぱっ、と咲かせてまわったと。
そこへ、殿さまの行列が通りかかった。
「これは、珍しい。じじいよ、そこの枯れ木に、花を咲かせてみい。」
じじいが、灰をぱっとまくと、サクラは、さらさら、ぱっと、咲いたと。
「見事、見事、あっぱれ花さかじじいじゃ。」
と、じじいは、殿さまから、たくさんの褒美をたまわった。
隣の欲張りじじいは、その話を聞くと、かっかに悔しがった。そして、残った灰をかき集め、急いで殿さまの行列の先回りをして、ふれまわった。
花さかじじい
枯れ木に花を
咲かせましょう
殿さまは、この声を聞くと、
「ほほう、花さかじじいが、またきたぞ。そこの枯れ木に、花を咲かせてみい。」
隣のじじいが、灰をつかみ、ぱっと、まき散らしたが、一向に花は咲いてくれん。
じじいは悔しがって、袋の中の灰をめくらめっぽうまき散らした。おかげで、灰は、殿さまの目や鼻や口の中まで、とびこんでしもうた。
「無礼なやつ!」
隣のじじいは、とうとう、家来の者に、縛り上げられてしもうたと。
そやけで、人まねちゃ、せんもんだと。
かたっても、かたらいでもそうろう。

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